車用に開発された仮想マスダンパー「地球独楽・弐」がオーディオにも効く、ということなので効果を大いに疑いつつスピーカーに貼ってみた。Ge3の新製品を試すときは半信半疑、というか2信8疑ぐらいで始まりそれがやがて嬉しい驚きに変わるのが通例であるが、とりわけ今回の地球独楽はそんな「常識」や猜疑心を根本から覆す圧倒的なパワーを見せつけてくれることになった。
使用SPはKRELL LAT-1000。
スピーカーの高さが140cmほどあるので、まずはどこに貼るべきか思案した。Ge3サイトの説明に直径120cm、厚さ100cmの範囲で効果がある、と書かれていたのでとりあえず真ん中あたりで目立たない場所、具体的には裏板の中心部付近、バスレフダクトの上に貼ってみた。信じられないことに(と何回書かねばならないのだろう!)、この小さな箱が巨大なスピーカーを見事に調律し、いままでGe3チューンで味わってきた総合的な情報量の増加をここでも体験させてくれた。より分析的に聴くなら、地球独楽は特に低域のレンジ拡大、ダイナミクスおよび音色を描き分ける能力の向上、が得意であるように感じられた。
最適設置ポイントを探るべくフロントのバッフル面に移設すると、意外にも期待に反して生気の抜けた音になってしまった。中身が薄く、抑圧されたような感じの音。テレ・サテンを試したときにも感じたことであるが、Ge3製品は使用方法/場所によって効き過ぎるということがあるのかもしれない・・・落胆のうちに試聴を止めた。食事をはさんで数時間後、取り外す前に念のためもう一度聴いてみると、あまりの変化に息をのんだ。
いつも製品評価に使っているクロノスカルテットのCD(Pieces of Africa)を聴く。ここでの音質向上は、単に「今まで聞こえなかった音が聞こえる」とか「太鼓の音に実体感がある」というレベルをはるかに突き抜けている。打楽器奏者の腰と膝が上下に揺れているのがわかるのである!
言葉を換えて言うなら、椅子に座っていては絶対にこの音楽は奏でられないということがわかる。かつてGe3のサイトに書かれていた「指揮者から飛び散る汗が見える」という非情に胡散臭い、というかあり得ない(と思っていた)宣伝文句が、急に現実味を帯びた。
CDを愛聴しているベーム&ベルリンフィルの『魔笛』に替えて、耳を疑った。最初の変ホ長調の主和音が、聴き慣れた「ジャーン」ではなく、「ンジャーン」に聞こえるではないか。慌ててスコアを見て、鳥肌が立った。ヴァイオリン(1st&2nd)がそれぞれダブルストップで和音を弾くようになっているのである。ベームがこの最初の和音を普通のダブルストップではなく、二つの音を分けて低い方の音(G)から弾くようにヴァイオリン奏者たちに指示していることは明かである。が、ベームの意図は地球独楽を付ける前のオーディオ装置からは聞こえていなかった。ベルリンフィルなら出だしぐらい当然マイクロセカンド単位で揃っているだろうという強い思い込みが耳を塞いでいたのかもしれない。地球独楽の軽く小さな箱の中にはそんな思い込みを楽々と吹き飛ばすだけのパワーがある。オーディオ装置の買い換え、あるいはチューンで鳥肌が立ったのは、初めての経験である。